シャッター

露出を決める機構は大きく分けて光の通る量を決める絞り、センサーに光が当たる時間を決めるシャッター、当たった光に対する感度を決めるセンサーの感度設定の3つがあります。シャッターは前記の通りセンサーに光が当たる時間を制御することで露出を調節する機構ですが、そのシャッターにもいくつかの方式があり、それぞれ特徴があります。ここではそれを紹介します。

レンズシャッター

レンズシャッターとは、その名の通りレンズの中や前後に置かれるシャッターです。多くの場合虹彩絞りのような形状をしており、何枚かの羽根が閉じることによって光を遮り、シャッターの役割を果たします。レンズ毎にシャッターを組み込む必要があるなどの理由から、現在のレンズ交換式カメラに採用されることはほぼなく、もっぱらコンパクトカメラに使われます。

図:レンズシャッター(例)
図の中央の丸い部分が光が通る開口部です。外側のドーナツ状の暗い部分はレンズシャッターの羽根が開くときに収まる部分で、本来は不透明ですが構造が分かりやすいように半透明にしています。
左下の黒い四角をレリーズボタンに見立てて押すと、レンズシャッターが開き、一定時間の後また閉じる動作を行います(実際の羽根の動きはずっと高速ですが、分かりやすいようにゆっくりと動かしています)。
図はシャッターが閉じた状態で始まり、レリーズボタンを押すと開いて閉じます。フィルムコンパクトカメラではこの動作ですが、デジタルカメラの場合はセンサーに光が当たらないとファインダーに像が映らないので、最初から開放されています。レリーズボタンを押すと一旦シャッターが閉じ、それから露出時間開いた後にまた閉じるという動作をします。

フォーカルプレーンシャッター

フォーカルプレーンとは和訳すると「焦点面」であり、焦点の合う場所、つまりセンサーの直前に置かれるシャッターです。板状の幕がセンサーを覆うことによって光を遮ります。現在一般的なタイプのフォーカルプレーンシャッターはそれぞれが3枚程度の薄い金属の板で出来た2組の幕で構成されています。これらの幕はそれぞれ先幕(さきまく)、後幕(あとまく)と呼ばれており、一眼レフでは普段は先幕がセンサーを覆い、後幕は畳まれています。レリーズ時にはこの先幕を構成する板が重ねられながら上下方向に畳まれていき、センサーに光が当たります。先幕が開きだしてからシャッタースピードで設定された時間が経過すると、それまで畳まれていた後幕が先幕を追いかけてセンサーを覆っていきます。この先幕が開きだしてから後幕が覆うまでの時間が露出時間になります。ほとんどの一眼レフとミラーレスカメラで採用されています。

シャッター速度が高速になると、先幕が開ききらないうちに後幕の動作が始まり、センサーの端から少しずつ露光する動作になります。このことで困ることはあまりないのですが、ストロボ撮影をする場合には、ストロボが発光している瞬間に露光していない部分は暗いままになってしまうという問題が生じます。どこまで高速のシャッターを使ってもこのような問題が生じないかを「ストロボ同調速度」と呼ぶのですが、詳しくはストロボに関する項を別に設けて解説したいと思います。

低速 高速

図:フォーカルプレーンシャッター(例) 最初にセンサーを覆っているのが先幕、上に畳まれているのが後幕です(上下は逆の場合もあり得ます)。幕の動作が上下に動くものを縦走り、左右に動くものを横走りと呼びますが、縦に動かす方が移動距離が短くシャッター速度を速くできるので、普通は縦走りです。
「低速」の文字をレリーズボタンに見立てて押すと、動作を確認することができます。まず先幕が下に降りて開き始め、露出時間の後に後幕が閉じていきます。完全に閉じた後は先幕と後幕が両方とも上がって元に戻ります。
「高速」の文字を押すと、より速いシャッタースピード時の動作をします。先幕がスタートした後、露出時間経過後に後幕が動き出すのですが、シャッタースピードが先幕がセンサーを縦断する速度よりも速い場合には、先幕が下りきらないうちに後幕がスタートします。この時はセンサーの全部が一度に露出するのでは無く、スリット状に徐々に露出していく事になります。
図はシャッターが閉じた状態で始まり、レリーズボタンを押すと開いて閉じます。一眼レフカメラではこの動作ですが、ミラーレスやコンパクトカメラの場合はセンサーに光が当たらないとファインダーに像が映らないので、最初から開放されています。レリーズボタンを押すと一旦シャッターが閉じ、それから図のような動作をします。

レンズシャッターとフォーカルプレーンシャッターを後述の電子シャッターと対比してメカニカルシャッター(機械的シャッター)と呼びます。

ただしややこしいことを言うとフィルムカメラの時代にはシャッタースピードを(歯車やはずみ車など機械的な機構ではなく)電子的に制御したメカニカルシャッターの事を電子シャッターと呼んでおり、区別が必要な場合にはセンサーの動作によるシャッターを撮像素子シャッター、素子シャッターと呼ぶべきのようです(豊田先生のコラム参照)。

電子シャッター(素子シャッター)

メカニカルシャッターを使わずに、センサーの読み取り動作をシャッターの代わりに使うことを現在では電子シャッターと呼びます。機械的な仕組みが必要無いため静粛性や耐久性の面から有利ではあるのですが、後述の「ローリングシャッター歪み」という現象が発生するためスマートフォンやコンパクトカメラではよく使われますが、一眼レフやミラーレスカメラでは電子シャッターだけではなく、フォーカルプレーンシャッターも使われるのが一般的です。

電子シャッターはセンサー上のデータの読み取り方式で2種類に分けることができ、一度に全部のデータを読み取る方式を「グローバルシャッター」、端から少しずつ読んでいく方式を「ローリングシャッター」と呼びます。2022年1月現在ではCMOS画像センサーのデジタルカメラでグローバルシャッター方式のものは無く、全てローリングシャッター方式を採用しています。

シャッターの特性としてはグローバルシャッター方式の方が望ましいのですが、CMOS画像センサーの特性上グローバルシャッター方式を採用するのが難しいため、ローリングシャッター方式のセンサーが使われているという事情があります。

ローリングシャッター歪み

ローリングシャッター方式はセンサーの端から「少しずつ(フォーカルプレーンシャッターと比べてゆっくり)」読んでいくため、ストロボ同調速度が遅くなるのに加えて、「ローリングシャッター歪み」という特有の画像の歪みを生じる事があります。そのため2022年1月現在ではほとんどのミラーレスカメラ、一眼レフカメラはフォーカルプレーンシャッターも備えており、通常の撮影ではメカニカルシャッターを使う仕様になっています。

フォーカルプレーンシャッターも高速シャッター時にはセンサーの端から順に露光していきますが、端から端まで露光が完了するのにかかる時間は大体1/250秒程度なのに対し、例えば下の写真を撮影したカメラ(2018年製)のローリングシャッターは読み取りに1/20秒程度と、約12倍の時間がかかります。フォーカルプレーンシャッターも厳密にはローリングシャッター歪みと同様の原理による歪みが生じているはずですが、その程度が小さいために普通は問題視されていません。

図:ローリングシャッター歪みの例 電車が右から左に移動しているのを、1/2000秒の電子シャッターで撮影しています。センサーの読み取りが画面下から上に向かって進んでいる間に電車が移動しているので、電車の下端読み取り時よりも上端読み取り時の時の方が電車が右側に進んでおり、このように歪んだ写真になります。背景の建物や手前の柵は移動していないので歪みません。
スタート

図:ローリングシャッター歪みの例1 センサー上を像が右から左に移動するときのローリングシャッター歪み

スタート

図:ローリングシャッター歪みの例2 プロペラ状のものが回転する様子を撮影するときのローリングシャッター歪みの例。プロペラの回転速度とセンサー上の大きさ、読み取り速度の関係によって不思議な歪み方をします。

ただしローリングシャッターでも読み取り速度を高速化することによってフォーカルプレーンシャッターと同程度以上にローリングシャッター歪みを無くすことは可能です。2021年にはSony α1などが積層型センサーを搭載してローリングシャッター歪みを大幅に低減し、同年12月発売のNikon Z9はフォーカルプレーンシャッターと同等の速度まで読み取り速度が向上した結果、ローリングシャッター歪み問題を解決してメカニカルシャッターを搭載していません。

フリッカー

蛍光灯など高速で明滅する照明下で非常に速いシャッター速度で撮影すると、画像に縞状の模様が写ったり、画面の上下で露出にムラが出ることがあります。この現象をフリッカーと呼びます。フォーカルプレーンシャッターでも起きる現象ですが、読み取り速度の遅い電子シャッターの方がより顕著に起こります。

図:蛍光灯によるフリッカーの例 インバーター方式でない蛍光灯の場合、50Hz地域では毎秒100回、60Hz地域では毎秒120回明滅しています。この写真は50Hz地域で電子シャッターを使って撮影しました。縞模様がほぼ5セット収まっていますが、これはセンサーがデータを読み取り始めてから終わるまでに5回蛍光灯が明滅したことによります。つまりセンサーの読み取りに5/100秒ほどかかっている事が分かります。

電子先幕シャッター

このページのフォーカルプレーンシャッターの図では一眼レフカメラを想定してシャッターが閉じた状態からスタートしています。しかしミラーレスカメラではファインダーに被写体を写すためには常にセンサーに光を当てる必要があるので、普段はシャッターが開いている状態です。レリーズボタンを押すと、まず一旦先幕が閉じてからふたたび先幕を開き直す必要があります。この一旦先幕を閉じる動作が一眼レフカメラと比べるとレリーズボタンを押してから露出が始まるまでのタイムラグ、レリーズタイムラグとなります。

このため、先幕の動作を機械的な幕を動かす代わりに、センサーの読み取りを開始するという動作に置き換える事があります。これが電子先幕シャッターと呼ばれるものです。これで先幕動作に関わるレリーズタイムラグを無くすことができ、電子シャッターの読み取りには時間がかかりますが、読み取りを開始するだけなら高速なので、ローリングシャッター歪みは生じません。

ただデメリットとして、メカニカルシャッターとセンサー表面の間にローパスフィルタや保護ガラスなどがあり、この2つが同一平面上に無い関係で、特定の条件でボケが欠ける事があります。

比較

まとめとして、それぞれのシャッターのメリットとデメリットを整理しましょう。

メリットデメリット
レンズシャッター比較的小型
ストロボ同調速度に制限が無い
シャッタースピードが遅め
レンズ毎に組み込まなくてはならない
フォーカルプレーンシャッターシャッター速度を速くできる動作時の振動が大きめ
ミラーレスカメラでは先幕動作分レリーズタイムラグが生じる
電子シャッター機械部品が不要でコンパクト、故障も減る
シャッター速度を速くできる
振動が無い
ローリングシャッター歪みが生じる
ストロボ同調速度が遅い
(2021年現在)
電子先幕シャッターシャッター速度を速くできる
振動が少なめ
条件によってボケが欠けることがある。
現在ミラーレスカメラと一眼レフカメラはフォーカルプレーンシャッターが主流ですが、今後は電子シャッターのみの機種に移行していくと思われます。

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