遠近感(パースペクティブ)

私たちが遠近感を感じるのには幾つかの仕組みがありますが,代表的なものには両目の視差によるものと,何らかの比較対象との見かけの大きさの比較があります.両目の視差とは,人間の左右の目から見える画像が,対象が遠いときよりも近いときの方がずれるという現象を利用したもので,いわゆる3D映像はこの視差を作ることで映像を立体的に見せています.ただし一般的な写真では視差を感じることは出来ませんから,遠近感は主に後者の要因で感じることになります.

比較対象との見かけの大きさの違いとはつまり,例えば大体同じ大きさであることを知っている2つの物体があり,一方が大きくもう一方が小さく見えていれば,最初の物の方がもう一方より近くにあることが分かります.あるいは人間と家など大きさが非常に違うと分かっている物体が同じような大きさで写っていれば,人間に較べて家が随分遠くにあるということが分かります.写真における遠近感は,このような要因で生じます.

図aは被写体と背景との位置関係とパースペクティブを説明しています.緑が被写体,赤が背景を表します.この例では被写体と背景が同じ大きさですが,被写体が背景に近い左の図では見かけの大きさ(カメラから見た角度)があまり変わらないのに対し,被写体が背景と較べてカメラに近い右の図では,被写体の見かけの大きさの方が遙かに大きくなっています.この大きさの差が遠近感を生じる原因です.

(a)被写体と背景との位置関係とパースペクティブ

(b)焦点距離の違いとパーペクティブ

図:パースペクティブ

図bは同じ位置関係にある被写体を異なる焦点距離のレンズで見た状態を表しています.左は焦点距離の長いレンズ,右は焦点距離の短いレンズであり,黒い線はそれぞれの画角を表しています.さて,ここで緑の被写体を画面の半分くらいの大きさに写そうとすると,焦点距離の短いレンズの方が被写体に近づかなければなりません.すると,カメラと被写体と背景の位置関係はこの図のようになります.焦点距離が短いレンズの方が被写体と背景の写り方に大きな差が生じ,背景と被写体との距離が大きく離れているように写ります.

次の2枚の写真は、ライオンのオブジェが同じくらいの大きさに写るようにそれぞれ焦点距離24mmと100mmのレンズで撮影しました。背景にオニギリ状の白いオブジェがありますが、24mmで撮影した方はライオンとオニギリの距離が離れているように、100mmで撮影した方が距離が近いように見えます。

A:焦点距離24mmで撮影

B:焦点距離100mmで撮影

こういう例を,「焦点距離の短いレンズで撮影すると遠近感が強調される」,「焦点距離の長いレンズで撮影すると遠近感が圧縮される」,などと表現します.

このような遠近感の違いは正確にはレンズの焦点距離の違いでは無く,カメラと被写体,背景との位置関係の違いによってもたらされます.カメラと被写体との距離に対するカメラと背景との距離の比率が大きいほど,遠近感を強く感じます.焦点距離の違うレンズで同じ被写体を同じ大きさで撮影するとき,焦点距離の短いレンズを使う方が被写体に近づくので,カメラと被写体の距離がカメラと背景の距離に比べて小さくなり,遠近感が強調されることになります.逆に同じ位置から同じ被写体を撮影しても,焦点距離の違いによる遠近感の違いは生まれません.広角レンズで撮影した写真を望遠レンズで撮影した写真と同じ画角でトリミングすれば,同じ遠近感の写真になります.

次の写真は、上の100mmのレンズで撮影した位置から焦点距離24mmのレンズで撮影したものです。

C:焦点距離24mmで撮影

この写真の一部をトリミングして、100mmレンズで撮影したものと比べてみましょう。

C’:焦点距離24mmで撮影したものをトリミング

B:焦点距離100mmで撮影

このように、24mmで撮影した写真をトリミングしたものは、パースペクティブあるいは圧縮効果の観点からは100mmで撮影したものと同一になります。パースペクティブに影響を与えるのは、カメラと被写体、背景の位置関係であってレンズの焦点距離ではないことが見て取れます。

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