露出

露出とは

私たちが暮らす環境には,明るい場所もあれば暗い場所もあります.人間の視覚にはそれなりの調節機能があるため,それほど意識していないかも知れませんが,その明るさの差は具体的に数字で表すと何万倍にもなります.

明るさの基準の一つに「照度」というものがあり,これは「ルクス」という単位で表します.例えば照明をした屋内では500ルクス前後ですが,満月の夜では1ルクス未満,夜の街灯下で100ルクス程度,曇天の昼間では30,000ルクス程度,晴天昼間では100,000ルクス程度にもなります.

しかしながらカメラのセンサーは(フィルムや人間の視覚,コンピュータのディスプレイなども),こんなに幅広い明るさの範囲を同時に扱えるようには出来ていません.せいぜい数千倍程度がいいところです.そこで、センサーに当てる光の量(露出)をセンサーが扱える範囲に収めるための工夫が必要になります。

カメラにおいて露出の調節は「絞り」と「シャッター」で行います。「絞り」では一度にカメラに入ってくる光の量を調節し、「シャッター」は光が入ってくる時間の長さを調節することができます。

例えばセンサーが扱える光の強さが仮に最大10,000,最低10だとします.そこに当たる光の強さがこの範囲に収まれば適切に記録されますが,10,001以上の光は10,001だろうが15,000,20,000,100,000などどんな強さであっても10,000として記録されてしまい,見分けることができません.逆に10未満の光は9だろうが5だろうが0.1だろうが,一様に0として記録されます.結果として,センサーに当てる光の量が適正よりも多すぎた部分は写真にすると真っ白くつぶれてしまい(白飛び),逆に適正よりも少なすぎた部分は真っ黒くつぶれてしまいます(黒つぶれ).そのため,光が強過ぎたら弱め,逆に光が弱過ぎたら出来るだけ多くの光を取り込むなど,光の量をセンサーが扱える範囲に収めるように露出を調節しなくてはなりません.

絞り

絞りとは,カメラの中の光が通る道筋の大きさを変えるための装置です.一眼レフやミラーレスでは,三角形に近い独特の形をした板が5枚から9枚程度組み合わさった形をしており,その並び方を変えることで真ん中に空いた穴の大きさを変えることができます.形や働きは,かなり人間の虹彩に似ています.絞りの開き加減はF値という数値で表し,F値が2倍になると穴の直径が1/2倍に,明るさは1/4倍になります.F値が大きくなるほど暗くなることに注意して下さい.

F1.8

F2.8

F8.0

図:絞り(F値は参考値)

被写体が暗い場合には,図のF1.8の様に絞りを開いて(穴を大きくして)より多くの光を取り込むようにし,逆に被写体が明るい場合は,図のF8.0のように絞りを絞って(穴を小さくして)強すぎる光を弱めるように調節します.

絞りには後述の「被写界深度」を調節する働きもあります.絞りを開くとピントの合っている範囲が狭い(被写界深度の浅い)写真になり,逆に絞りを絞るとピントが広い範囲で合っている(被写界深度の深い)写真になります.

シャッター

シャッターは,センサーで光を記録する時間(露光時間)を調節するための装置です.シャッターボタンを押すと,設定した時間だけシャッターが開いてセンサーが光を受け取り,その後シャッターが閉じてセンサーが光の受け取りを終了します.このシャッターが空いて,センサーが光を受けている時間のことを「シャッタースピード」と呼びます.被写体が暗いときにはシャッターを開ける時間を長くして光を沢山とりこみ,逆に被写体が明るいときにはシャッターを開ける時間を短くすることで,センサーが読み取る光の量を調節することができます.

シャッタースピードの変更による影響は露出だけではありません.シャッターが開いている間は光を記録し続けるので,その間にカメラと被写体の位置関係が変わってしまうと,センサー上に出来る被写体の像の位置も動いてしまい,写真に写る像が「  れ」てしまいます.カメラが動いてブレることを「手ブレ」,被写体が動いてブレることを「被写体ブレ」と呼んでいます.両方ともシャッタースピードを上げることで抑えることができますが,手ブレに関してはその他に三脚を使うか,カメラの手ブレ防止機能を使うこともできます.

シャッターには大きく分けて機械式の「メカニカルシャッター」と,イメージセンサーの電子的な処理で露光時間を調節する「電子シャッター」の2種類があります.メカニカルシャッターの場合,デジタルカメラで一般的に使われるメカニカルシャッターには大きく分けてセンサーの直前に置かれるフォーカルプレーンシャッターと,レンズに組み込まれたレンズシャッターがあります.一眼レフやミラーレスでは主に「カメラの構造と機能」で図示したようなフォーカルプレーンシャッターが,コンパクトカメラでは主にレンズシャッターが使われます.電子シャッターは,イメージセンサーが光を記録する時間を電子的に制御することで露出時間を制御しています.

ところでややこしいのですが,メカニカルシャッターのシャッタースピードは電子的に制御されていますが,かつては機械的に制御されていたため,これと対比して,電子的に制御されている物理的シャッターが「電子シャッター」と呼ばれていました.そのためイメージセンサーでの電子的処理によるシャッターを,「撮像素子シャッター」「イメージセンサーシャッター」と呼ぶこともあります.

露出の仕組み

センサーが読み取る光の量は「光の強さ」×「光を受け取る時間」で表すことが出来ます.同じ強さの光を2倍の時間センサーに当て続ければ,光の量は2倍になります.光の強さを2倍にして同じ時間センサー当て続けても,光の量は2倍になります.そして,上記の通り光の強さは絞りで,光を当てる時間はシャッターで調節することができます.

さてここで,上記の理屈を頭に入れた上で,カメラでよく使うF値を思い出してください.レンズによって最小値は違いますが,例えばF2.0,2.8,4.0,5.6,8.0,11,16の様に並んでいます.これはF値が次の刻みに行くごとに,2の平方根(約1.4)倍だけ大きくなり,明るさが1/2倍になるような数字が採用されています.例えばF2.0 を1.414… 倍すると2.8,さらに掛けると4.0,5.6568..,8,11.31371… となります.5.6や11は,これらの数字の細かい桁を切り捨てたものです.この刻みを1つずらすことを,絞りを「1段絞る」とか「1段開く」とか表現しますが,これは明るさを半分にしたり2倍にしていることになります.

一方,露出を調節するもう一つの要素であるシャッタースピードは,1/30秒,1/60秒,1/125秒,1/250秒などが代表値として使われています.これもやはり1秒を基準に1/2秒,1/4秒,1/8秒,1/16秒,1/32秒,1/64秒,1/128秒,1/256秒といった値を,馴染みやすい数字に寄せたものです.これらの刻みを1つずらすことを,シャッタースピードを「1段上げる」,あるいは「1段下げる」という言い方をしますが,これも絞りと同様に,明るさを半分,あるいは2倍にすることを表しています.

「絞り」と「シャッタースピード」を組み合わせることで,「カメラに光を取り込む強さ」を決めることができ,この「カメラに光を取り込む強さ」を英語でExposure Value,略してEvと呼びます.F値が1,シャッタースピードが1秒の時,Evを0とし,光を取り込む強さを半分にする(つまり明るさを半分にする)毎に1を加えます.例えばF値が1.4,シャッタースピードが1秒ならEvは1,F値が4.0,シャッタースピードが1/64秒ならEvは10です.

←明るい F値 暗い→
1.01.42.02.84.05.68.0111622





シャッター
スピード



1″0123456789
1/212345678910
1/4234567891011
1/83456789101112
1/1545678910111213
1/30567891011121314
1/606789101112131415
1/12578910111213141516
1/250891011121314151617
1/5009101112131415161718
1/100010111213141516171819
1/200011121314151617181920
1/400012131415161718192021
1/800013141516171819202122

撮影時にはまず,被写体の明るさとセンサーの感度から,希望する露出を得られるEvを決めます(大抵はカメラが自動的に提案してくれる値をベースにプラスマイナスいくら、で考えるのでEvは意識しないと思います).例えばそれがEv9だったとしましょう.Ev9を得るために表の数値が9になっているところを探すと,F値1.0 シャッタースピード1/500秒から,F値22 シャッタースピード1秒まで,無数の組み合わせがあることが分かります(実際のカメラではF値やシャッタースピードを連続的に変化させることは出来ないので,限られた選択肢しか有りませんが,原理的には無数の組み合わせがあります).撮影するときには,この選択肢の中から撮影者が撮影意図に合致したものを選ぶ必要があります.

例えば風景写真などで被写界深度を深く取りたいときにはF値11 シャッタースピード1/4秒などを選ぶかも知れません.一方,ポートレート撮影などで被写界深度を浅くして背景をボケさせたいときには,F値1.4 シャッタースピード1/250秒などが選ばれるでしょう.あるいは動きの表現に重点を置いて,速い速度で動き回る動物等の動きを止めて撮影するためにF値1.4 シャッタースピード1/250秒などを選んだり,逆に物体の動きを表現するためにF値22 シャッタースピード1秒という組み合わせもあり得ます.

ISO感度

センサーが光に反応する度合いを「感度」といいます.ISOという規格で決められた単位を使うので,通常「ISO感度(あいえすおーかんど,いそかんど)」と呼ばれます.ISO感度は100,200などの数字で表され,数値が大きくなるほど高感度であることを表します.この数値が2倍になると感度が2倍になります.例えばISO感度100で適正な露出を得るのに必要なシャッタースピードが1/125秒だったとすると,ISO感度200ならば1/250秒で済みます.

第一印象だと感度が高い方が良さそうに感じますが,高い感度に設定するとその分ノイズも強くなってしまうという問題があります.だからといって低い感度で暗い被写体を撮ろうとするとシャッタースピードを遅くせざるを得ず,手ブレや被写体ブレが生じやすくなります.ISO感度は低い方が画質面では有利なのですが,環境が暗く,どんなに絞りを開いてもシャッタースピードを遅くせざるを得ずブレてしまう様な時にはISO感度を上げることも有効な手段になり得ます.したがって,このトレードオフを考慮しながらISO感度を設定しなくてはいけません.

銀塩カメラでは感度を変えるにはフィルムを交換するほかありませんでしたが,デジタルカメラでは気軽に設定メニューで変更でき,写真1枚毎に感度を変えられるようになりましたし,多くの場合カメラが自動で選択してくれるようにも設定できます.

ただしISO感度が低い方が画質的に有利,というのはあくまでも同じカメラの常用感度内での話です.あるカメラのISO100の画像が,他のカメラのISO200の画像よりも綺麗であるかは判断できません.また、機種によっては常用感度より減感して,より低いISO感度で撮影できるものもありますが,この場合は常用感度内の最低感度で撮影するよりも画質が劣化するようです.

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