センサーサイズ

銀塩カメラでは,一般消費者はコンパクトカメラも一眼レフも基本的に同じ規格の35mmフィルムを使っていました.ところが現在フィルムの代わりに使われているCMOSやCCDのセンサーの大きさは様々で,傾向としてコンパクトカメラには小さいセンサー,一眼レフには大きなセンサーが使われています.

そこで一般消費者もカメラのセンサーサイズについて意識する機会が多くなってきたのでは無いでしょうか。ここではセンサーサイズが写真に与える影響を考えてみましょう。

センサーサイズと画角

本質的にセンサーサイズの差が影響するのは画角のみである,ということが出来ます.デジタル一眼レフとミラーレスカメラの普及機のセンサーサイズはAPS-Cサイズと呼ばれる大きさで,一辺が35mmフィルムの約1/1.5の大きさです(キヤノンのAPS-Cマウントは他社より少し小さい1/1.6).すると同じレンズを使って撮影してもセンサーが像を認識できる範囲も約1/1.5になってしまうので,画角もその分狭くなります.画角の項で解説したとおり,センサーサイズを半分にして同じ焦点距離のレンズを使った場合,画角は半分になります.

例えば50mmの焦点距離のレンズをAPS-Cサイズのセンサーと組み合わせた場合,35mmフルサイズのセンサーと組み合わせた場合と較べて画角は1/1.5倍に,つまり35mmフルサイズで75mmのレンズを使った場合と同等になります.APS-Cサイズのセンサーにレンズを組み合わせる場合「35mm換算で焦点距離1.5倍の画角に相当」と書いてあるのはこういう事情によるものです(キヤノンは1.6倍).

センサーサイズと遠近感(パースペクティブ)

遠近感の違いは焦点距離そのものでは無く画角の違いによって生じるので,センサーサイズが小さくても遠近感に違いは生じません.ただし後述の通り,画角が同じならセンサーサイズが小さい方が被写界深度は深くなるので,ボケによる遠近感の感じ方は小さくなります.

センサーサイズと望遠効果

下図は左側にある被写体から出た光がレンズを通り,右のカメラ内にイメージサークルを作っているところを表しています(像は上下左右が反転しています).イメージサークル上の枠はセンサーサイズごとにその大きさの比を表したもので,外側から35mm,APS-C,4/3(フォーサーズ),1/2.3(普及型コンパクトカメラやPENTAX Q)のサイズに相当します.下の図はそれぞれのセンサーサイズを使って読み取れる像を表しています.35mmでは猫の体全体が大体写っていますが,1/2.3型は目の周辺しか写っていません.

図:イメージサークル

写真を見るときには撮ったセンサーのサイズに関わらず,見やすいサイズでディスプレイ上に表示するなり紙に印刷しますから,小さいセンサーで撮った方が望遠効果があるようにも見えます.しかし,実際には大きいセンサーで撮った画像をトリミングしたのと同じ事ですから,望遠効果を狙って小さいセンサーを敢えて使う意味はありません.

センサーサイズによる画像の違いはこれだけです.同じ焦点距離のレンズを使った場合,どんなセンサーサイズを使おうとセンサーにあたる光や出来る像は全く同じです.従って,画質や被写界深度などは全く変わらない・・・はずなのですが,実際にはセンサーサイズはこれらに間接的に影響を与えています.

センサーサイズが小さい方が望遠撮影に有利なことはないと説明しましたが,実際に望遠撮影に有利な機種を選ぶとセンサーサイズが小さい機種になることが多いと思われます.言ってることが矛盾してるんじゃないかと思われそうですが・・・.

望遠撮影で重要なのは画角あたりの解像度です.センサーサイズや写真全体の画角に関わらず,画角1°の範囲に描写できる線の本数が多いほど,遠くの被写体をより鮮明に描写できます.例えばフルサイズの2400万画素機とAPS-Cの2400万画素機を比べるとします。この場合,いずれも縦4000ピクセルx横6000ピクセルの画像が得られます.ただしセンサーの大きさが違う分,画素密度は違ってきます.フルサイズは横36mmですから1mmあたり約167ピクセル,APS-Cは横24mmなので1mmあたり250ピクセルの密度です.同じレンズを使ってこの2つのカメラで撮り比べた場合,APS-C機の方が1.5倍の解像度を持つことになります.

ここで例えばフルサイズ機の画素数が5400万画素あったとすると,縦6000ピクセルx横9000ピクセルで1mmあたりの画素数はやはり250ピクセルになりますので、上記のAPS-C機と同じ画素密度になりますから、同程度の望遠性能があると言えるでしょう(画角が広い分フルサイズの方がより性能が高いと言えるかも知れません).

実際に各社から販売されているラインナップを見ると,センサーサイズが小さい方が画素密度が高い傾向にあります.それはセンサーサイズに関わらずある程度の画素数は求められるので,センサーサイズが小さくなるほどには画素数は抑えられないからだと思われます.その結果として,望遠撮影には比較的センサーサイズが小さい機種の方が有利になっています.

センサーサイズと被写界深度

被写界深度とセンサーサイズとの間に直接の関係はありません.ただしセンサーサイズの小さいカメラでセンサーサイズの大きいカメラと同じ画角を得るには,焦点距離のより短いレンズを使う必要があります.すると焦点距離の短いレンズの方が被写界深度は深いので,結果的に小さいセンサーサイズのカメラでは被写界深度が深くなります.どれくらい深くなるかを理解するには,焦点距離が短くなることと,許容錯乱円の大きさを考える必要があります.

焦点距離と被写界深度

センサー上のボケの大きさ,すなわち錯乱円の大きさは(だいたい)焦点距離の自乗に比例し,F値に反比例します.同じF値であれば,小さいセンサーサイズで大きいセンサーサイズと同じ画角を得るために短い焦点距離を使うと,その分錯乱円は小さくなります.例えばフォーサーズ規格はフルサイズの半分の大きさなので,同じ画角を得るための焦点距離も半分になります.錯乱円の大きさは焦点距離の自乗にほぼ比例するので,この場合錯乱円の大きさは約1/4になります.このケースで錯乱円の大きさを同じにするためには,F値を1/4にする必要があります.つまりセンサー上のボケの大きさを同じにするためには,センサーサイズの大きさの比率の2乗だけ,F値を小さくすれば良いことになります.

センサーサイズと許容錯乱円の大きさ

ただし,上記の話はあくまでもセンサー上のボケの大きさです.実際に写真を鑑賞する際には,どのような大きさのセンサーで撮影しようとも,同じ大きさに拡大してから鑑賞します.この時センサーサイズが小さければ,その分余計に拡大する必要があるので,ボケの大きさも拡大されます.ボケが大きくなるわけですから,被写界深度はその分浅くなります.

やはりフルサイズとフォーサーズの比較を例にとって説明します.フルサイズセンサーで使われる代表的な許容錯乱円の大きさは0.03mm(30μm)と説明しました.24mm x 36mmのフルサイズセンサーの画像を10倍に拡大すると240mm x 360mm(A4より一回り大きいくらい)になり,センサー上の許容錯乱円の大きさ0.03mmも拡大され,0.3mmになります.許容錯乱円の考え方は、これより小さい円は点と見分けがつかないということですから,240mm x 360mmの写真上の0.3mmまでの大きさの円は点に見え、0.3mmより大きい円はボケて見えることになります.

ここでフォーサーズ規格のセンサーはフルサイズセンサーの大きさの半分なので,同じ大きさに拡大するためには20倍に拡大しなくてはいけません.この時0.03mmの大きさは20倍に拡大されるので0.6mmになります.これは当然0.3mmよりも大きいですから,センサー上でフルサイズの基準での許容錯乱円に収まっていても,写真にするとボケて見えることになります.つまりレンズのF値や焦点距離をフルサイズと同じ条件で撮影した時,鑑賞時にはフォーサーズの方が被写界深度が浅くなるのです(もちろんこの時画角も半分になっています).鑑賞時にフルサイズと同じ大きさのボケになるようにするには,許容錯乱円を半分の大きさである0.015mmに設定する必要があります.

センサーサイズとボケ

センサーサイズが半分の大きさになり,焦点距離を半分にすると,センサー上のボケの大きさは1/4になりますが,鑑賞時にこれを2倍に拡大するのでトータルではボケの大きさも半分になります.ボケの大きさはF値に反比例するので,ボケを同じ大きさにするには,F値を半分にすれば良いことになります.一般に,小さいセンサーサイズで大きなセンサーサイズと同じボケを得るためには,センサーサイズの比率だけF値を小さくする必要があります.フルサイズとの比で言えば,APS-CサイズならF値を1/1.5(ただしキヤノンのカメラは1/1.6)に,フォーサーズなら1/2にすれば,だいたい同じくらいのボケ具合になります.

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